ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 あの夜だって彼のおかげでどん底に落ちずに済んだ。あっさりと捨てられてボロボロに傷ついて壊れそうな自尊心を彼は『好きだ』『ずっと好きだった』と撫でるように優しく掬い取ってくれた。

 胸の痛みとともに、スマートフォンをバッグの奥深くへと仕舞い込む。そして大学病院を振り向き、同じように「さよなら」と小さく告げて、今度こそ本当に歩きだす。

 数日は慌ただしかった。
 住宅手当の件もあるので、住んでいたマンションは出てこれから勤務する病院が借り上げているマンションに引っ越しを済ませなければならなかった。

 もともと荷物は多くなかったとはいえ、ダンボールに荷物を詰め終わりガランとした部屋に立つと、意外なほど広く感じるのは天井も壁も白いからなのか。
 まるでここでの生活もろとも消しゴムで消してしまったよう……。
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