折り紙少女と不思議な力 ~君の手の上で、私の折り紙は動き出す~
3-4:想いを届ける
その日の夜、私の部屋の窓が小さくコツコツと鳴った。
誰かが窓を叩いているらしい。まったく、夜なのに!
あれ、でも、ここは家の二階だぞ……。
「……ひいい! ふ、不審者⁉ お化け⁉」
窓を叩くコツコツという小さな音は、一定の間隔で鳴り続けていた。
意を決した私は、枕をかざして防御の体勢をとりながら、そうっとカーテンをめくった。
そこには、灰色の折り紙の鳩がいた。
「はあああ、よかった……。脅かさないでくれ……」
私は窓を開けて鳩を迎え入れた。
でも、折り紙の感情を読み取れるのは雪谷くんだ。私のところに来てもしょうがないんじゃないかな……。
そう思いながら、私は折り紙の鳩を両手で持った。
手の上で、折り紙の鳩が淡く光った。すると、不思議な感覚に包まれた。
体の奥がもぞもぞとする。まるで、自分じゃない誰かがいるみたい。
まず、いい気持ち。ワクワクするような、楽しみな雰囲気。
その次に、嫌な気持ち。不安? なんだか落ち着かなくて、もどかしい。
そしてその感覚は、すぐに消えてなくなってしまった。
「これが、折り紙の感情……?」
鳩はもう光っていない。それどころか、少しも動かなくなってしまった。時間切れかな。
雪谷くんが言っていたように、確かに感情のようなものを感じた。
でもそれはとてもあいまいで、三上くんの様子を把握できるようなものではなかった。
「さっぱりわかんない!」
私は動かなくなった折り紙を机に置いて、ベッドに仰向けに寝転がった。
これじゃあ全然ダメだね……。
まったく、どうして私のところに飛んできたんだ。
もしこれが雪谷くんだったら、うまく感情を読み取ることができたかもしれないのに。
雪谷くんの不思議な力。折り紙を操れる、彼だけの力。
そんなことを考えたところで、変だな、と感じた。
雪谷くんに頼ってもしょうがない。
私は綾奈の友達だから、私ができることをしないと。
そう思ったら、途端に頭がシャキッとしてきた。
私ができることといえば……もちろんこれだ。
私は素早く起き上がって机に向かった。
引き出しを開けて、四角いケースを取り出す。そこには様々な色の折り紙がたくさん入っている。
綾奈は、三上くんの気持ちが知りたい。でも、それを聞く勇気がない。
ようし、決まったぞ。
私はピンクの折り紙を机に広げ、優しい手つきで折り始めた。
どうか、綾奈が頑張れますように。
綾奈が、三上くんと向き合えますように。
一歩前に進むことができますように。
そんな思いを込めて、ゆっくりと折り紙を折った。
*
翌日、私は朝一番の教室で、綾奈に鳩のことを伝えた。
「ごめんね。はっきりとしなくて、思ったようにはならなかった」
「そんな……」
綾奈は打ちひしがれていた。机の一点を見つめて固まっている。
「ねえ綾奈、聞いて」
私がそう言うと、綾奈は顔を上げた。目はうつろで、今にも倒れてしまいそうな様子だ。
「怖いと思うけど、三上くんとちゃんと話して、気持ちを確かめた方がいいと思うよ」
「華香までそんなこと言うの!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて。ここは教室だから」
綾奈が大きな声を上げたので、私は慌てた。振り向くまでもなく、周りからの視線を感じる。
居づらくなった私は、綾奈を連れて廊下に出た。人通りの少ない突き当たりで立ち止まり、向かい合った。
「綾奈、これあげる」
私は、ピンク色のハートの折り紙を手渡した。
昨日の夜、綾奈のことを思って折ったハートだ。
雪谷くんの力とかはない。ただの折り紙。
これを作り終わった時、こんな普通の折り紙でいいんだろうか、と迷った。
でも、雪谷くんに頼らなくても、きっと私にはできることがある。
「これは、お守り。綾奈が勇気を持てるようにと思って作ったの」
「勇気……」
綾奈はハートのお守りをしげしげと眺めている。
それは、雪谷くんがやるみたいに光ったりはしないけど、どこか温かさを秘めているような気がした。
「なんで返信が来ないのか。理由は三上くんにしかわからない。そして、それは折り紙でこっそり調べるようなことじゃなくて、本人と向き合って話さないといけないことだと思うよ」
「うん……でも……」
「綾奈、わかるよ。何を言われるのかわからないって、怖いよね。でもね、三上くんのことを好きなら、いつか付き合いたいって思うなら、綾奈には三上くんと向き合う勇気が必要だよ」
綾奈は私の話を、小さく頷きながら聞いてくれている。
「そして、綾奈ならできるよ! 私が保証する。だって、私の知ってる綾奈は、人の恋バナに首を突っ込みたがる、パワーのある女子だもん。自分の恋バナに負けるもんか!」
私はそう言って、綾奈の背中を優しく叩いた。
「華香……ありがとう」
その声は潤んでいた。
「ああ」
綾奈が目頭を押さえながら天を仰いだので、私は慌てた。
「ご、ごめん、朝から泣かせちゃって……」
ただでさえ注目を集めてから教室を出たんだ。目を腫らして帰ってきたら、さらに注目を浴びてしまう。
「いや、大丈夫。セーフ。ギリギリね」
こちらを向いた綾奈の目は赤みを帯びていたものの、涙がこぼれることはなかった。
「いや、ほんと、華香の言う通りだと思う。私、ビビってた。でも、どんな手を使ったって、最後は三上くんの気持ちを確かめないといけないもんね」
綾奈はにかっと笑い、ハートの折り紙をひらひらさせて言った。
「今日、塾なの。三上くんに聞いてみるよ。このお守りを持ってね」
「うん!」
そして、私たちは笑顔で教室に戻った。
きっと大丈夫。
綾奈なら、絶対に大丈夫。
*
その日の夜、綾奈からメッセージが届いた。
『今電話してもいい?』
わあ! きっと三上くんのことだ!
私は大急ぎで『いいよ!』と返した。
『もしもし』
「ど、どうだった⁉」
私は、つい興奮して叫んでしまった。
『あはは、ちょっと声デカいよ。そう、三上くんと話したよ』
「うん」
綾奈は思ったよりも落ち着いていた。
私はドキドキしながら次の言葉を待った。
『でね、メッセージへの返信を書こうとして、文面に迷ってたんだって。気の利いた返信をしなきゃって思って。それで結局返せなかったって言ってた』
「おお⁉ ってことは!」
『うん。三上くんは返信を送らなかったから、私に嫌われたと思ったみたい。そんなことないのにね』
あはは、と綾奈は笑った。
「つまり、仲直りできたんだね?」
『うん、できた。なんか、お互いに勘違いしてただけみたい』
「よかったああ……」
私は安心して、へなへなと力が抜けた。
綾奈は、三上くんから返信が来なかったせいで、三上くんに嫌われたと思い込んでいた。
三上くんは、綾奈への返信をしそびれたせいで、綾奈に嫌われたと思い込んでいた。
でも、それは違った。相手への思いがきっかけで起きた、勘違いだったようだ。
もしかして、二人は似てる? 不器用な感じがそっくりだと思った。
『本当によかったよ。華香が背中を押してくれたおかげ。ちゃんと向き合えたおかげで、すれ違ったままにならずにすんだよ。ありがとう』
「いえいえ」
『あと、相談に乗ってくれたイケメンツートップにも明日話すよ。結局、雪谷くんの言った通りになったのが癪に障るけどね!』
それを聞いて、私は雪谷くんの言葉を思い出した。
――聞けば終わりじゃね?
確かに、結果的にそうなった。でも、やっぱり言い方ってものがあるでしょ……。
「それは癪に障るね」
『ねー!』
そうやって私たちは笑いあった。
それにしても、雪谷くんはどうしてああなのか。
顔や声はいいけど、女の子の気持ちとか全然わからなそうだよな……。
誰かが窓を叩いているらしい。まったく、夜なのに!
あれ、でも、ここは家の二階だぞ……。
「……ひいい! ふ、不審者⁉ お化け⁉」
窓を叩くコツコツという小さな音は、一定の間隔で鳴り続けていた。
意を決した私は、枕をかざして防御の体勢をとりながら、そうっとカーテンをめくった。
そこには、灰色の折り紙の鳩がいた。
「はあああ、よかった……。脅かさないでくれ……」
私は窓を開けて鳩を迎え入れた。
でも、折り紙の感情を読み取れるのは雪谷くんだ。私のところに来てもしょうがないんじゃないかな……。
そう思いながら、私は折り紙の鳩を両手で持った。
手の上で、折り紙の鳩が淡く光った。すると、不思議な感覚に包まれた。
体の奥がもぞもぞとする。まるで、自分じゃない誰かがいるみたい。
まず、いい気持ち。ワクワクするような、楽しみな雰囲気。
その次に、嫌な気持ち。不安? なんだか落ち着かなくて、もどかしい。
そしてその感覚は、すぐに消えてなくなってしまった。
「これが、折り紙の感情……?」
鳩はもう光っていない。それどころか、少しも動かなくなってしまった。時間切れかな。
雪谷くんが言っていたように、確かに感情のようなものを感じた。
でもそれはとてもあいまいで、三上くんの様子を把握できるようなものではなかった。
「さっぱりわかんない!」
私は動かなくなった折り紙を机に置いて、ベッドに仰向けに寝転がった。
これじゃあ全然ダメだね……。
まったく、どうして私のところに飛んできたんだ。
もしこれが雪谷くんだったら、うまく感情を読み取ることができたかもしれないのに。
雪谷くんの不思議な力。折り紙を操れる、彼だけの力。
そんなことを考えたところで、変だな、と感じた。
雪谷くんに頼ってもしょうがない。
私は綾奈の友達だから、私ができることをしないと。
そう思ったら、途端に頭がシャキッとしてきた。
私ができることといえば……もちろんこれだ。
私は素早く起き上がって机に向かった。
引き出しを開けて、四角いケースを取り出す。そこには様々な色の折り紙がたくさん入っている。
綾奈は、三上くんの気持ちが知りたい。でも、それを聞く勇気がない。
ようし、決まったぞ。
私はピンクの折り紙を机に広げ、優しい手つきで折り始めた。
どうか、綾奈が頑張れますように。
綾奈が、三上くんと向き合えますように。
一歩前に進むことができますように。
そんな思いを込めて、ゆっくりと折り紙を折った。
*
翌日、私は朝一番の教室で、綾奈に鳩のことを伝えた。
「ごめんね。はっきりとしなくて、思ったようにはならなかった」
「そんな……」
綾奈は打ちひしがれていた。机の一点を見つめて固まっている。
「ねえ綾奈、聞いて」
私がそう言うと、綾奈は顔を上げた。目はうつろで、今にも倒れてしまいそうな様子だ。
「怖いと思うけど、三上くんとちゃんと話して、気持ちを確かめた方がいいと思うよ」
「華香までそんなこと言うの!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて。ここは教室だから」
綾奈が大きな声を上げたので、私は慌てた。振り向くまでもなく、周りからの視線を感じる。
居づらくなった私は、綾奈を連れて廊下に出た。人通りの少ない突き当たりで立ち止まり、向かい合った。
「綾奈、これあげる」
私は、ピンク色のハートの折り紙を手渡した。
昨日の夜、綾奈のことを思って折ったハートだ。
雪谷くんの力とかはない。ただの折り紙。
これを作り終わった時、こんな普通の折り紙でいいんだろうか、と迷った。
でも、雪谷くんに頼らなくても、きっと私にはできることがある。
「これは、お守り。綾奈が勇気を持てるようにと思って作ったの」
「勇気……」
綾奈はハートのお守りをしげしげと眺めている。
それは、雪谷くんがやるみたいに光ったりはしないけど、どこか温かさを秘めているような気がした。
「なんで返信が来ないのか。理由は三上くんにしかわからない。そして、それは折り紙でこっそり調べるようなことじゃなくて、本人と向き合って話さないといけないことだと思うよ」
「うん……でも……」
「綾奈、わかるよ。何を言われるのかわからないって、怖いよね。でもね、三上くんのことを好きなら、いつか付き合いたいって思うなら、綾奈には三上くんと向き合う勇気が必要だよ」
綾奈は私の話を、小さく頷きながら聞いてくれている。
「そして、綾奈ならできるよ! 私が保証する。だって、私の知ってる綾奈は、人の恋バナに首を突っ込みたがる、パワーのある女子だもん。自分の恋バナに負けるもんか!」
私はそう言って、綾奈の背中を優しく叩いた。
「華香……ありがとう」
その声は潤んでいた。
「ああ」
綾奈が目頭を押さえながら天を仰いだので、私は慌てた。
「ご、ごめん、朝から泣かせちゃって……」
ただでさえ注目を集めてから教室を出たんだ。目を腫らして帰ってきたら、さらに注目を浴びてしまう。
「いや、大丈夫。セーフ。ギリギリね」
こちらを向いた綾奈の目は赤みを帯びていたものの、涙がこぼれることはなかった。
「いや、ほんと、華香の言う通りだと思う。私、ビビってた。でも、どんな手を使ったって、最後は三上くんの気持ちを確かめないといけないもんね」
綾奈はにかっと笑い、ハートの折り紙をひらひらさせて言った。
「今日、塾なの。三上くんに聞いてみるよ。このお守りを持ってね」
「うん!」
そして、私たちは笑顔で教室に戻った。
きっと大丈夫。
綾奈なら、絶対に大丈夫。
*
その日の夜、綾奈からメッセージが届いた。
『今電話してもいい?』
わあ! きっと三上くんのことだ!
私は大急ぎで『いいよ!』と返した。
『もしもし』
「ど、どうだった⁉」
私は、つい興奮して叫んでしまった。
『あはは、ちょっと声デカいよ。そう、三上くんと話したよ』
「うん」
綾奈は思ったよりも落ち着いていた。
私はドキドキしながら次の言葉を待った。
『でね、メッセージへの返信を書こうとして、文面に迷ってたんだって。気の利いた返信をしなきゃって思って。それで結局返せなかったって言ってた』
「おお⁉ ってことは!」
『うん。三上くんは返信を送らなかったから、私に嫌われたと思ったみたい。そんなことないのにね』
あはは、と綾奈は笑った。
「つまり、仲直りできたんだね?」
『うん、できた。なんか、お互いに勘違いしてただけみたい』
「よかったああ……」
私は安心して、へなへなと力が抜けた。
綾奈は、三上くんから返信が来なかったせいで、三上くんに嫌われたと思い込んでいた。
三上くんは、綾奈への返信をしそびれたせいで、綾奈に嫌われたと思い込んでいた。
でも、それは違った。相手への思いがきっかけで起きた、勘違いだったようだ。
もしかして、二人は似てる? 不器用な感じがそっくりだと思った。
『本当によかったよ。華香が背中を押してくれたおかげ。ちゃんと向き合えたおかげで、すれ違ったままにならずにすんだよ。ありがとう』
「いえいえ」
『あと、相談に乗ってくれたイケメンツートップにも明日話すよ。結局、雪谷くんの言った通りになったのが癪に障るけどね!』
それを聞いて、私は雪谷くんの言葉を思い出した。
――聞けば終わりじゃね?
確かに、結果的にそうなった。でも、やっぱり言い方ってものがあるでしょ……。
「それは癪に障るね」
『ねー!』
そうやって私たちは笑いあった。
それにしても、雪谷くんはどうしてああなのか。
顔や声はいいけど、女の子の気持ちとか全然わからなそうだよな……。