折り紙少女と不思議な力 ~君の手の上で、私の折り紙は動き出す~

4-3:想いを込めて

 雪谷くんたちから少し離れた場所で、加藤くんは私にこそっと聞いた。
「もしかして、華香ちゃんってさ……小森さんのこと、その……あんまり好きじゃないでしょ」
 私は驚いた。小森さんが、好きじゃない?
「そんなことないよ……いい人そうだし」
「でも、華香ちゃんが小森さんを見るとき、いつも変な顔をしてるよ」
 私はハッとして、また顔を触った。
 確かに、小森さんのことを考えると、もやもやとした気持ちになっていた。
 でも、嫌いになる理由が見当たらない。
「そんなこと、ないと思う……」
「淳の彼女」
 加藤くんが突然そう言うと、私の心臓が小さく跳ねた。
「顔に出てるよ」
「……何が?」
 そうは言ったものの、さすがに自分でもわかった。
 確かに。私は、小森さんが、ちょっとだけ、嫌かも。
 それはきっと、雪谷くんの彼女だから。
 私の友達の雪谷くんの、私の知らないところを知ってる小森さん。
 雪谷くんが、私には見せない顔を向ける小森さん。
 それが嫌じゃないと言えば、嘘になる。
「華香ちゃん、小森さんのために折るのが難しかったらさ、淳のために折ったら?」
「雪谷くんのため?」
「うん。あいつからのお願いで来てるわけだから、あいつのことだけ考えてやってみなよ」
 そう言われて、私は雪谷くんのことを考えた。
 不思議な力を持つ雪谷くん。
 顔と声がよくて、クラスでモテてる。
 私の折り紙の上手さを見抜いて、声をかけてくれた。
 そして、加藤くんの落とし物や、綾奈の恋愛相談など、二人で力を合わせてトラブル解決に取り組んだ。
 喋ると少しぶっきらぼうだけど、本当は優しいところが好き。
 ……ん?
 私は頭をぶんぶんと振った。
 違う。雪谷くんには彼女がいる。
 だから、そういう好きじゃない。人として、友達として、ね。
 とにかく、私は雪谷くんの力になりたい。
 彼が困っているなら、全力で助けたい。
 そのことは間違いない。
 そう思ったら、次はできそうな気がしてきた。
「加藤くん、ありがとう。できるかも」
「さすが華香ちゃん」
 加藤くんはにっこりと笑った。
 
「雪谷くん、お待たせ。もう一度やりたいんだけど、いいかな?」
「荻目がいいならいいけど、大丈夫?」
「うん、きっと大丈夫」
 私はそう言って、テーブルに折り紙を広げて折り始めた。
 これは、雪谷くんからのお願いなんだ。
 小森さんのことは……すごく気になるけど、それはしょうがない。
 雪谷くんは、川にキーホルダーが落ちたことで困っている。
 それを見つけて、雪谷くんに笑顔になってもらいたい!
 私はそんな気持ちを込めて、またイルカの折り紙を作った。
「はい、これ」
 それを雪谷くんに渡すと、また息を吹きかけられて動き出した。
「おお、さっきまでよりも良さそうだな」
 見た目の違いはないと思うけど、雪谷くんはそう言った。
「よし、今度こそ。頼むぞ!」
 折り紙のイルカを川に放つと、すぐに深く潜り、水草の中をかき分けていった。
「すごい! 本当にいい感じだ!」
 その様子を見て、加藤くんははしゃいだ。
 私は祈った。潜るだけじゃ駄目なんだ。落としたキーホルダーを見つけないと。
 お願い、イルカさん。頑張って……!
 折り紙のイルカは、しばらく川の中に潜ったままだった。
「大丈夫かな……?」
 川の中の様子は見えない。私はだんだん心配になってきた。
 すると、ばしゃん、と音を立てて、折り紙のイルカが水面を飛び上がった。
「ああっ!」
 小森さんが声を上げた。
「キーホルダー!」
 折り紙のイルカは、口に銀色の四角いキーホルダーをくわえていた。
「やった!」
 雪谷くんも興奮している。
 川岸まで泳いできたイルカを手ですくい上げて、キーホルダーを手に取った。
「ああ、これだ! 小森さん!」
「すごい、淳くん!」
 二人は大喜びだ。
「よかった……」
 私はホッとして力が抜けた。
 一時はどうなることかと思ったけど、どうにか見つけることができた。
「さすが華香ちゃん」
 加藤くんがそう言うと、小森さんは私の手を握ってぶんぶんと振った。
「うん! 華香ちゃんも本当にありがとう!」
「は、はい」
 私はどうすればいいかわからず、オロオロしてしまった。
「よっぽど大切なキーホルダーだったんスね」
 加藤くんが笑顔で聞くと、小森さんは照れた顔をした。
「うん……ね、淳くん」
 そして、小森さんは雪谷くんのことを上目遣いで見た。
 雪谷くんはあからさまに目を逸らした。
 詳しいことはわからないけど、どうやらあのキーホルダーは二人にとって大切なものだったんだな。
 ……なんか、複雑な気持ちになってきた。先に聞かなくてよかったかも。
「荻目」
 雪谷くんはにっこりと笑って言った。
「今日は助かったよ。ありがとな」
「へへ、どういたしまして」
 うん、とにかくよかった。
 雪谷くんに喜んでもらえて。雪谷くんの笑顔が見られて。
 私も心から嬉しくなった。
 
 *
 
 雪谷くんは小森さんを送って行ってしまった。
 私と加藤くんは、二人で駅に向かった。
「あの二人、仲が良さそうだったね」
「そうだな」
 なんだか気に入らないけど、あの二人は誰が見てもお似合いのカップルだった。
「そういえば」
 加藤くんは私の方を見た。
「華香ちゃんってさ、彼氏とか欲しいって思う?」
「うーん、ちょっとわかんないかな……」
 雪谷くんのことが気にならないわけではない。
 でも、彼氏にしたいかと言われると、よくわからない。そもそも彼女持ちだし。
「ちなみに俺は、今フリーだよ。彼女いない歴一か月」
 加藤くんはおどけて言った。
「そうなんだ」
 別のクラスの子と噂になっていたけど、もう別れちゃったのか。
 でも、加藤くんは優しくてイケてるから。
「加藤くんなら、またすぐに彼女ができるよ」
 私は優しい笑顔で応援してあげた。
「……おう、よくわかってんね」
 ははっ、と加藤くんは笑った。
 そして両手をポケットに突っ込み、私の少し前を歩き出した。
 その様子は、いつもの明るい加藤くんらしくないような気がした。
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