『春・夏・秋・冬~新たな道へ』
途中何度も捨てようかと迷いながらタクシーに乗った俺は、結局寄り道をして馴染みのバーのマスターに携帯を預かってもらうよう頼みまた空港へと向かった。


「一年も?その間にうちの店が潰れないよう祈ってくれよ。あ、俺が死なないようにもな」


そう笑って快諾してくれた白髭のマスターの顔を思い出し、ついタクシーの後部座席で一人ニヤついてしまう俺。


「ありゃあと30年は確実に生きるな」


僅かに口元だけで笑ったあと何気なく窓の外へと視線を移した。


まだ冬の気配は残るものの随分と風も暖かくなり、淡い春色の服をまとった人達も増えている。


ふとそこに小さな子供を囲むように足を止め、道端を覗く若い男女の姿を見付けた。


…あれは家族だろうか。きっとあの視線の先には一足早く新しい植物が芽吹いているんだろうな。


ぼんやりと遠い目でそんな事を考えていると、スピードに乗ったタクシーの中からはすぐにその家族は消えてしまった。


そして不意に胸に感じた痛みに唇を噛みしめて下を向く。


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