【長編】ホタルの住む森

ささやかな夢 Side晃


季節は秋になり家の周りは秋の花々に包まれた。

僕たちは春の訪れと共にやってくる新しい命の準備を少しずつ始める。

小さな肌着やベッドを買い揃えるうちに、僕はだんだん父親になる実感が湧いてきた。

暇さえあれば、茜のおなかに手をあてて、語りかけてみる。

初めて赤ちゃんが動いた時、茜はとてもうれしそうだったけれど、僕にはどんなにおなかに手を当ても分からなくてちょっと悔しかった。

だから、あれから、毎日「動いてる」というと、何を放り出しても飛んできておなかを触りだすようになった。

あれだけ反対した人とは思えないって茜は言うけど

君の体が心配だったんだからしょうがないよ。

君と赤ちゃんを待つこの時間がこんなにも幸福だなんて考えもしなかったしね。


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