【長編】ホタルの住む森

戸惑い


「陽歌、今度の添乗俺とだから」

次のツアーの渡航者リストを渡しに営業部へ足を運んだ陽歌に、同期の梶 拓巳(かじ たくみ)が声を掛けた。

陽歌は旅行代理店のカウンターで接客業務を担当しているが、ゴールデンウィーク明けから続く修学旅行シーズンは特別に添乗にもかり出される。

女性添乗員がいると女生徒が安心するという理由から、毎年必ず男性と女性の添乗員がペアで担当する事になっているのだ。

添乗員の補佐をするサブ添乗とはいえ、お客様からすれば添乗員に変わりは無く、何度やってもなれない仕事に出発前から緊張するのはいつもの事だ。

だが、今回の添乗で気が重いもう一つの理由が、拓巳だった。 

梶 拓巳は入社直後から陽歌に何度も告白をしている。

180cm以上ある長身、すらりと伸びた手足はとても長く、海外添乗も多い為か女性に対するエスコートもスマートだ。

彫りの深い目鼻立ち
すっきりとした高い鼻
黒目がちな瞳は深めの二重で、薄い唇に浮かぶ笑顔を引き立たせている。

モデルといっても通るであろうその容姿は、すれ違う女性のほとんどが思わず振り返るほどで、かなりモテる。


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