【長編】ホタルの住む森

Side 茜


晃はずっと私を抱きしめていた。

とても大切なものを抱くように、優しくそっと包み込むように。

優しくされると辛くなる。

私は来年の春、この桜の木の下に立つ事は出来ないかもしれないのだから。

「晃…私の負けなの?」

やっと心に決めた決心を揺るがせたくなくて聞いてみる。

ううん、本当はどこかで別れを切り出す切っ掛けが無くなった事実に、どこかほっとしている自分がいるのを感じている。

本当は別れたくなんか無いと、最後の時まで一緒にいたいと叫んでいる自分がいる。

それが晃にとってはどれだけつらい事か分かっているのに。

ふうっと溜息を吐いて晃に向き直る。

「ずるい。私に付いた花びらなら私の勝ちのはずでしょう?」

少し拗ねた顔をして泣いた意味を誤魔化してみせる。

「約束は捕まえるって事だっただろ?
その花びらは茜にくっついたの。
でも捕まえたのは僕だから。僕の勝ち。わかった?」

晃は私が負けたこと悔しがって泣いたと思っているようだ。

だったら、このまま私の本心には気付かないでいてもらいたい。

「ひど~い詐欺だ!」

そう言って暴れて腕からすり抜ける。

怒ったように数歩離れぷいと背中を向けた。


これで誤魔化せているだろうか。



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