【長編】ホタルの住む森

親友


あの日から10日。

拓巳は変わらぬ態度で陽歌に接していた。

時々冗談めかして「俺のこと好きになった?」と訊いてくるが、決して焦って答えを求める事をしない。

陽歌も冗談を返すように軽く流して誤魔化していたが、心は言葉ほどには軽くなかった。

添乗の間は仕事に集中し拓巳を意識しないようにしないとミスを連発してしまいそうで、あえて考えないよう努めた。

拓巳は持ち前の明るさで学生たちの人気を集めている。

見るたびに男女を問わず声を掛けられて写真に収まっていた。

陽歌も拓巳ほどではないが学生達と一緒に記念写真を撮った。

何度目に声を掛けられた時だったか、ふとカ強い視線を感じて振り返えると拓巳と視線が合った。

それからはカメラを向けられる度に視線を感じるようになった。

特に男子生徒から声を掛けられたときの視線は痛いほどだ。

目が合うとすぐに視線を逸らしてしまうのだが、明らかな嫉妬が窺われた。

少し前だったら不快に感じたかもしれない拓巳の嫉妬。

だが今は、それを少し嬉しいと感じている自分がいることに、陽歌は驚いていた。

拓巳に惹かれ始めているのだろうか?

女生徒に囲まれ笑顔を作る拓巳の姿を、いつしか複雑な思いで見ている自分に、陽歌は気持ちの変化を感じていた。

先日の真剣な告白が、陽歌の中で小さな変化をもたらし始めていたのかもしれない。

夢の彼に恋する気持ちとは明らかに違う。

だが拓巳を意識している自分を否定できなかった。



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