【長編】ホタルの住む森

交差する想い


―彼女に婚約者がいると知って動揺した時、心に浮かんだのは誰の顔だった? それがおまえの気持ちだよ―

今朝の右京の言葉を思い出し、溜息を吐き出すと晃は星空を見上げた。

習慣になった星を眺める癖。
茜は窓から見渡す丘の風景が好きで、リビングでも寝室でもいつも窓辺に座っていた。

四季折々に咲き乱れる花々に幸せな時がいつまでも続くようにと願い、宝石のように煌く夜空に愛する者の幸せを祈っていた。

いつの頃からか、窓からの風景に茜の姿を求めるのが晃の習慣になった。

庭の花々の中に、星降る夜空に、彼女の愛した風景の全てに愛しい姿を求め語りかける。

今夜は星が見えなくて、哀しげに微笑む青白い三日月が見下ろしているだけで、彼女の微笑みは闇に隠れてしまっている。

晃は夜空に茜を求めるのを止め、ベッドサイドへと視線を移した。


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