【長編】ホタルの住む森

『私はこの世での役目を終えたの。本当なら16年前に私は転生するはずだった。でも私は輪廻の輪から外れてもこの世に留まることを選んだの』

「どうしてあの時天使になったの? 生まれ変わって来世でもう一度晃さんに逢おうとは思わなかったの?」

『罪を犯した私達は二度と逢うことが出来ないはずだった。あんな形でも再び愛し合えたのは奇跡だったのよ。だから、次の世での再会は望めないわ。だったら輪廻の輪から外れても、彼だけは救いたかった…』

「二人の間に宿ったのが暁君だったから晃さんが減刑されたっていうのは嘘なんでしょう? だって、茜さん最期のときに神様にお願いしていたじゃない。晃さんの罪を背負うから彼を許して欲しいって」

『…それは…半分は本当よ。暁は使命を担って生まれてきたの。
どんな障害も乗り越え、命を賭して彼を世に送り出す。それが私の天命だったの。
彼が宿った時、晃は出産を反対したわ。何日も悩んでようやく出産を許してくれた。でもその決断は私の死を決定するものだった。…この意味が解る?』

陽歌はハッとして顔を上げた。

もしも晃が出産を反対していたら、暁は産まれる事無く、茜は生きていたかもしれないのだ。

そして陽歌は茜とも晃とも出逢う事無く、今とはまったく違う人生を送っていたかもしれない。

運命が歪められたという茜の言葉の重さを改めて実感した。


< 420 / 441 >

この作品をシェア

pagetop