【長編】ホタルの住む森

Side 茜


月も星も見えない夜道

いつもだったら避けて通るはずの道

双子の姉と待ち合わせたはずのホタルの小道で、思いがけない人影を見た

ここで出逢ったのは偶然じゃない

きっとあなたは決意を秘めている

だけど、その手を取る事は許されない

私には残された時間など無いのだから…


闇夜に漂う小さな光は、吹く風にかき消えてしまうほど、儚く弱々しくて…

まるで、いつ灯が消えるか判らない私の命そのもののようだ

だけど…

どんなに儚くとも、懸命に生き、一瞬に命の限りを燃やすように輝く小さな光は

叶わないと知っていても、あなたと生きたいと望んでいる私の本心を映すようで

哀しいほど眩しかった


あなたの微笑む姿が無数の淡い光で浮き上がる

フワリと懐かしい香りに包まれると、その唇が優しく重なった

あなたに別れを告げてから、どんなにこの腕が恋しかっただろう

「たとえ短い時間(とき)でもいいから…一緒に幸せになろう」

擦れるあなたの声は切ないけれど強い意志を秘めている


私は何を迷っていたのだろう

命の長さが幸せじゃない

その想いの深さが幸せなのだ



小さく頷く私を、あなたは苦しいほどに抱きしめた



私の光は弱くても、あなたとならば未来を照らせるだけの強い光になれるはず

闇夜に消え入りそうな儚い光が、幻ではなく確かに存在するように

今、私はまだ生きていて、確かにあなたを愛しているのだから…



月も星も見えない夜道

私たちは確かに見つけた

儚くて弱々しい

不確かで切ない

強く生きる力を秘めた

未来への希望の光を…



++ プロポーズFin ++

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