奴のとなり
走りながら携帯を開く。
待ち受けに表示される時計を見ると、
待ち合わせよりも2時間も早い。
すぐに電話帳を開き、電話を掛ける。
「どうした?」
低い、
それでいて優しい声が耳に響く。
沈黙が気になるのか、
奴はもう一度同じことを繰り返す。
さっきよりは少し不安げな声。
「あのね、あたしねっ」
走ってるからか、興奮してるからか、
言葉がうまく繋げない。
奴も続きを待ってるのか、黙ったまま。
「あのっ、あたしね。
嫉妬するぐらい一樹桃矢が好きみたい!!」
「ぶはっ、ごほごほっ」
奴が咳き込む。
それがおかしくて、
あたしは笑いを噛み殺した。
奴はしばらく咳き込んでて、
段々心配になるほどだった。