奴のとなり



左手の小指に触れる。



ひんやりと冷たくて心地いい。



「桜は何も悪くない」



「うん」



「適当に生きてきた代償っつうか…、嫌な感じが拭えねぇつうか」



「うん」



「うまく言えねぇけど」



ゆっくり言葉を探すように紡ぐ。
吸い込まれそうな瞳にあたしが映ってる。



「でもこれだけははっきりしてる。俺は桜を失いたくねぇんだ」



「失う?」



こんなに必要としてるのに?



「あぁ。今さら離せねぇよ」



そう言うと、あたしを力強く引き寄せた。少し早い鼓動があたしに伝わる。



お互いこんなに欲してるのに、何で失う心配をしてるの?



なんで、そんなに切ない声で言うの?



わかんないよ。










.
< 421 / 555 >

この作品をシェア

pagetop