優しい檻

船越はため息をついた。

「私の幸せを奪った責任、取って下さい」

船越はゆっくり雪依に近づいた。
「―本当にいいのか?」
雪依は頷いた。
船越は雪依の頭を撫でた。

「先生、私のこと、すごく好きでしょう?」
「―おせーよ、気付くのが」
と笑い、雪依を抱き締めた。

「―もしかしてこうなること、分かっていたんじゃないですか?」

「…え?」

「あの作ってくれた曲。
あれ、デュオでしたね?」
「―…」

「私がもらったのは第一ピアノだけの譜面だった。
貴方のピアノがなければ、あの曲は完成しません」

船越は笑った。
「お前は俺が中学の頃から見抜いた女だからな」


――やられた。

私は貴方の檻からもう出られない。
貴方の優しい檻から…



―雪依は船越の腕の中で、この上ない幸せに胸が震えた―



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