優しい檻

固形の食べ物を口にするのは久しぶりだった。

今まで食べる気が湧かず、口にしていたのは飲み物だけだった。

無理にクッキーを一口食べただけで吐き気がした。
雪依がトイレで吐いていると、玄関でチャイムがなった。無視していると、ドアを叩く音がした。

「先生?大丈夫ですか?」
俊一の声だった。

トイレから出て、仕方なくドアを開けた。
「何?家まで来て何の用?」

「だって…雪依さん泣いてたから。」
「―大丈夫よ。帰って」

ドアを閉めようとすると、足を挟んで来た。
「大丈夫じゃないです!
こんなに痩せて、そんな顔で!僕も妹も雪依さんに元気になって欲しいんだよ!」

―涙が溢れてきた。それと同時に再び吐き気がしてあわててトイレに向かった。
「大丈夫ですか?」俊一が背中をさすってくれた。
(―あったかい―…)

人の手って温かいんだ。


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