有罪モラトリアム
部活が終わった後、帰ろうとするとやっぱりT君が追いかけてきた。

「一緒に帰っていい?」
私はまたコクンと頷いた。
「話したい事があるから、歩いて帰ろう?」

田んぼ道を2人で歩いた。
本当はT君に惹かれてた。好きだった。
でもハブは嫌だ。
友達で十分だと思った。

「T君・・・。あのね、悪いけど、やっぱりT君とは付き合えない。」

「そっか・・・。オレの事嫌い?」

「嫌いじゃないよ!嫌いじゃないけど・・・。今は困るの。」

「困るって?」

「うん・・・。」

「何で・・・?」

「なんでって・・・それは言えないよ・・・。」

しばらく沈黙が続いた。

「Sのことだろ。」

え??T君はSの気持ちに気づいてたの?

「昨日からずっと変じゃなかった?ユキとS、全然喋ってないみたいなんだけど。部活にも来ないし。」

「気づいてたの…。」

「そりゃー。いつもユキさんのこと見てますから。」

ハハッと軽く笑いながら言った。
笑い事じゃないのに・・・。

「気づいてるなら言うけど、Sはね、T君のこと好きなの。だから私のこと許せないって。話も聞いてくれなくって。」

「ごめんな。本当は、Sがオレのこと好きなんじゃないかって前から思ってたんだ。でもオレが好きなのはユキだし、どうしても言いたかったから言っちゃったんだ。2人が喧嘩するとこなんて本当は見たくなかった。」

「気持ちは・・嬉しかったよ。」

「ユキはさぁ、もしSと友達じゃなかったら俺と付き合ってくれてた?」

「…かもしれない。」

「それって少しでもオレの事好きってこと?」

「…かも。」

「じゃあ、もっと好きになって。」
T君は私の手を掴んだ。
じっとこっちを見ている。目が離せなかった。

「本気なんだ。」

嬉しかった。
泣きたかった。
でも、弱い私は答えることができなかった。
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