我妻教育
『そんなァ!海外留学だなんて!!行かないでくれよ、ケイシロウ!!』

ジャンは泣きそうな顔で、すがってきたが、琴湖はあきらめ顔だった。

『啓さまは、行くと決めたなら、行く人ですから』


『メールやテレビ電話もある。離れていたとて、我々の関係は変わるまい』

自分の口から、あっさりと友情を確認するような言葉が出たことに、少々おかしく思えた。
3ヶ月前の私だったら、こんな台詞が出てくることはなかっただろうから。

やはり、私は変わったのかもしれない。

そんな自分が嫌ではなかった。



『そうだよね、ボクらの友情は、永遠だものネ』

『旅立つ日までに思い出をたくさん作りましょう』



ということで、まずは、初日の出を見に行くことにしたのだ。


3月には、卒業旅行も予定している。


初日の出にむけて、大晦日にも関わらずジャンは我が家に泊まりにきた。

夜が明けぬ早朝、自転車に乗り琴湖の家にむかえにいき、そして今、海を目指している。




我々と同じように、初日の出を拝みに来たであろう人々の姿も少なくはない。


防波堤に並んで立ち、まだ暗い東の水平線の光を待ちわびた。


キンと冷えた外気に、身も心も引き締まる思いだ。



元旦の朝焼け。

水平線に一筋の光が現れた。


じょじょに光は水平線をオレンジに染め、ゆっくりと日は昇る。

しばし言葉もなく、じわじわ円形に近づく日の出を見守った。



澄んだ青空。

白い息。

眩しさに目を細める。



太陽は、完全に海面から離れ、その姿をあらわにした。

あたりはすっかり明るく、空の青さがいっそう冴え渡る。


心までも晴れ上がっていくようだ。





未礼と共に過ごした日々。

春には花が咲くだろう。

未礼が植えたチューリップの花が。


見届けることなく、私は旅立つ。



うつむくな。

ふりかえるな。

前をむけ。


捨てるわけではない。

糧として、花を咲かすためだ。
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