我妻教育
未礼を見送ってから私は、しばし考えこんでいた。


完全に自己嫌悪である。

未礼に朝食をとらせてやれなかったことに関して。

早く起きなかった未礼が悪いといえば、その通りだろうが、未礼の面倒を全面的にみると決めた以上は私の責任だ。


我が家に嫁に来て、腹をすかせたまま学校へやるなど、なんという不甲斐なさ。
失態だ。

唇を噛みしめた。


これからについて思案した。

そう、要領だ。

未礼も言っていたではないか。もっと要領というものを考えねば。

未礼に、もっと要領よく支度をさせれば朝食をとらせてやることができるのだ。


もう二度とひもじい思いはさせまい。固く決心した。


だが具体的にどうすべきか悩んでいた。

未礼をもう少し早い時間から起こしにかかるか?しかし私とて朝は忙しい…。


授業の始まる前の教室内。
頬杖をつき、机の木目を見つめながら逆算していた。
未礼を起こすには、最低30分はかかる。
そうすると……



「難しい顔なさって、何か悩みごとですか?」

いつの間にか、琴湖が目の前に立っていた。

「…いや、何でもない」

「…そう、ですか…?」

「?どうかしたのか?」

難しい顔をしていたのは、琴湖のほうだった。

悩みがあるというよりは、あきらかに不愉快な表情で、私にまっすぐ強い視線を向けている。


「聞きましたわ」
不機嫌な声だ。
琴湖は、利発な女だったが、気ままなところがたまに傷で、心のうちが態度に出る。


「何をだ?」

「ご婚約なさったとか…」

「ああ、その話か」

「なぜ教えてくださらなかったのです?」

「言うもなにも、まだ本決まりではないのだ」

「でも…」



「モ〜ニン☆なになにィ〜、お二人サン、重苦しい空気ッ!!ホワ〜イ?」

朝から異様にテンションの高い男子生徒が、私たちの会話に割って入ってきた。


琴湖が横目で冷たい視線をおくっている。


「なぁに、姫はご機嫌ななめ?」
その男子生徒は、外国人のようにオーバーに、困ったね、というしぐさで私を見る。
半分外国人なのだが。

梅乃木ジャン。クラスメイトだ。


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