【超短編 27】 牛の美奈子と子羊ミルラン
牛の美奈子と子羊ミルラン
 子羊のミルランは話を聞きながら、ベルウィング祖父さんが言っていた話を思い出していた。
「牛は興奮すると周りが見えなくなっちまうんだ。だから多少のことは多めに見るんだよ」

 篭目町の山の裾には小さな牧場がある。
 小さいといってもそれなりに広いのだが、他の牧場に比べたら随分と小さいだけの話だ。
 その長岡牧場に住む牛の美奈子は今日も走ることを夢見ていた。
「私も年をとったからね」
 そうぼんやりと空を見ながら呟いて、仲間の羊たちに笑ってみせる。
 美奈子の話では昔、たいそう足が速かったそうだ。
「干支の話は知ってるだろ? そうそうお前たちのお祖父さんのベルウィングが話していたやつだよ。神様に競争させられるやつさ。あれはネズミのずる賢さが目立った話にされちまっているけど、あたしらの世界じゃまた別の側面からの話なわけさ」
「別のって?」
 羊仲間の半分は別のことをし始めて、まともに話を聞いているのは気つけば一番年下のミルランだけになっていた。
「ただのスピードレースさ。だってそうだろ? もともとは競争する話なんだからさ。神様が集めた動物はそりゃ沢山いたわけだけど、トップ通過はある程度限られてくるわけじゃないか。小動物と私たちとじゃどう考えたって力の差がありすぎるからね」
「でもウサギは4番だったよ」
「あいつは特別さ。ウサギの中でも特別速いウサギだったよ。後ろ足が馬鹿みたいに長いのさ。そのくせ努力家で毎日毎日走りこんでそのうち耳で空を飛ぶんじゃないかって噂までたつほどだったよ。どっかのウサギみたいに途中で居眠りして亀に負けるような間抜けじゃ決してなかったさ」
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