夜の街から

俺に夢中の女の子には申し訳無いけど、気を紛らすには丁度良かった。

でもふとした瞬間、思い出す。

同じ様な香り、似ている仕草に。


必死に目を反らしてギターを手に取った。
騒ぐ心を抑えようと逆に指を激しく動かす。

気付くと唄い終わっていた。
無心になれたのが嬉しくて、フゥっと息を漏らす。

拍手をくれるギャラリーに声を掛けようと視線を上げる。


ハッとした。
一瞬、周りが白くなった。
思わず息を飲む。
時が止まって欲しいと願った。


周りの高さより頭一つ分高いその身長。
その瞳に映る色は優しくて包み込む様な。

俺に微笑みかける姿は空の向こうからお迎えが来た気がした。


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