ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】
「ゴメン、お待たせしました~」

「いや………大丈夫ですよ」

俺が考え事してる間、トイレに行ってたシゲさんが、ハンカチで手を拭きながら戻ってきた。


「―――――その話からすると、水嶋家、複雑ですねぇ。私は水嶋家には一度も行ったことありませんが。一見、普通の家っぽいですが、彼女にしてみれば、大学教授の父上、茶道とマナー講師の母上、高学歴で昔からの格式高い家柄………」

「シゲさん、そんなに俺の家、格式とか高くないですって!!」

「いや、いくら彼女が、母上やおばあさまと意気投合したとしても、初対面ですから、母上サイドも彼女も、それなりに気を遣ったと思いますよ。その上、水嶋父からの突然のお言葉。いい事や良くない事が交互にやってきて、衣理ちゃんの気持ちも複雑になってしまって………心の整理が付かなかったのでしょうね。ただ、ネコは、心から彼女を迎え入れた………ということは、強ち間違いないでしょうね」

シゲさんは、俺が傷つかないようにと、丁寧な言葉を選んで話す。
誰でも、他人の家のことを話すときは、相手の逆鱗に触れないようにと、慎重に慎重に話す。

しかし彼は、言葉を選ばなくても、誰に対しても、いつも丁寧。

きっと、言葉ひとつひとつを選ぶことは、たいしたことではないんだろう…と、会話とは無関係なことをつい、考えてしまった。

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