Magical Moonlight
それからしばらくたって。
にーちゃんが、
「引越しの日が決まった」
と、ぼくに言った。
「来月の、15日になった」
来月の15日―
あと、1ヶ月、ない。
「大家さんにも話をして、来月の家賃は半額にしてもらったし、引越し業者は来月に入ってから頼むとして…」
にーちゃんは、そう言いながら、部屋を歩き回る。
ねえ、ねーちゃんは?
ねーちゃんには、言ったの?
「…彼女にも、話したよ」
にーちゃんは、辛そうに、そう言った。
「彼女も、俺を責めたけど、
 うちの事情もわかってるから、
 最後は納得してくれたよ」
そう言って、にーちゃんは、溜め息をついた。
「彼女はやさしいからな。 俺なんかには、もったいないくらい、
 いい人だよ」
にーちゃんは、ぼくを抱き上げた。
「で、おまえなんだけどな」
ぼくは、にーちゃんを見た。
「2人でいたことの思い出に、俺が実家に連れていくことになったよ」
…え?ねーちゃんじゃなくて?
「ねーちゃんも、おまえを引き取りたいって言ってたけど、ねーちゃんの家はここから遠いから、連れて帰れないってさ」
にーちゃんは、また溜め息をついた。
「できることなら、もっと一緒にいたかったよ…」
にーちゃんは、うなだれたまま、しばらく動かなかった。

ぼくは、かなしかった。
こんなに思い悩んでるにーちゃんを見ることも、
にーちゃんと、ねーちゃんが、別れることも、
そして、2人と一緒にいられないことも。
別れるなんて、考えたことなかった。
ずっと、一緒にいられると思っていた。
それなのに、それができない。
何も言えない、何もできない。すごくもどかしいよ。
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