記憶の扉
 
父はイビキをかいて眠っている。

「朝ご飯、食べた?ちょっと出ましょうか」

近くのファミレスに入ってモーニングを注文した。

明るくなった窓の外ではそろそろ日常が始まろうとしていた。



「お父さん、ずっと悪かったの?」

「それが昨日まではなんともなかったのよ。お父さんったらジョギングなんて始めるもんだから、きっと無理したのね。倒れたのはその最中だったの。先生がおっしゃるには腎機能が落ちてるんですって」


わたしは糖尿病とか人工透析とか、腎臓に関係のありそうな医学用語を思い浮かべていた。


「腎臓病だと食事が大変になりますね」

「えっ、そうなの。特別なもの、作らなくちゃいけないの・・」

 
裕樹におどされて、料理の苦手な母は困ったような顔をしてみせた。

< 9 / 20 >

この作品をシェア

pagetop