時効。
──
最近、田舎の養父母の事が気になる。もう随分連絡していない。今年始め、年賀状が返送されてきた。それが最後。拗ねると彼らはよくそんな事をする。なかなか帰省出来ない穴埋めにと時折贈り物をするのだが、ことごとく返送されて来る。親不孝な娘へ対する彼らなりの反抗なのだ。
しかし周りからすれば、それは少し変だ、と思われるかも知れない。確かに。多少そんなふうでもあった。なんていうのか‥言っても言っても決して通じる事のない‥精神的にグレーな壁を彼らに感じながら私は育った。養父から受けていた性的虐待を黙し続けた理由はそこにある。
正直、その当時は殺したいと思ったものだ。が出来ない。それならばと役場に駆け込み、「私だけの戸籍を作りたい」と懇願するも、「大人になって又来てね」と軽く一笑されあえなく撃沈。これはきっと、真正面からぶつかっても駄目だ、と悟った私は必死で逃げ道を探した。結局、18の時に家を飛び出しそのまま帰る事はなかった。
けれど
彼らには憎しみと同時に恩も感じている。
いつだったか‥あれは私が入院していた時、見舞いに来た母の両手は袋満杯のミカンで塞がっていて、真冬だというのに額には汗が滲んでいた。
「これ、皆で食べ」と言いながら袋を下ろした彼女は、幾重にも着こんだ上着を脱ぎ始めた。と、その中の赤いカーディガンを私に差し出し、「ほら、これお前着れ」と言った。
恥ずかしい、と思いながらも私はその滑稽な姿に母を感じた。

いつの間にやら随分時は流れてしまった。
彼らも年老いたなぁ、と最近つくづく思う。
勿論、全てではないけれど、時間の積み重ねは色んな罪を洗い流してくれる、そう信じたい。


又いつか近いうち、電話でもかけてみようと思う。

< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

父   娘   母。

総文字数/738

その他1ページ

表紙を見る
宇宙的想像力。

総文字数/610

恋愛(その他)1ページ

表紙を見る
びわの実。

総文字数/771

恋愛(その他)2ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop