とある少女の猶予期間




彼は持ち上げた銃の引き金を、ゆっくりと引いた。
鈍く光るそれは、ターゲットの左胸を、綺麗に、静かに、突き抜けていった。
彼は、銃を下ろさなかった。
月明かりの下、撃ち抜かれた心臓に気付かないフリをして。
少女は美しい微笑みを浮かべた。
彼は、銃を下ろさなかった。
鮮やかな赤い羽を、闇夜の残像へと映しながら。
少女は音もなく倒れていった。
彼は、銃を下ろした。
本当は気付いていた。
本当は知っていた。
だから知らないフリをした。

己の結末は、己の意志で決めるのだ。
彼は下ろしたはずの銃を、もう一度持ち上げた。
今度は、先程よりも高く。
そして、銃口の向きは―――。

美しい月の照らす、美しい真夜中に。
二度目の、鮮やかすぎる、赤い羽が舞った。





< 3 / 12 >

この作品をシェア

pagetop