いちえ
「旦那…は裏に入ってるから見えねーけど」
瑠衣斗の視線を追うようにして目を向けると、仕切りの向こう側に人の影が慌ただしく動いている。
時間帯的に、まだ朝のモーニングと言った所だろう。
これからランチになり、今は忙しく動き回っている時間に違いないだろう。
「すごいね〜。大繁盛」
「…よく働かされた」
げんなりして言う瑠衣斗に、私は驚いて視線を向ける。
この無愛想なるぅが!?
そんな私の視線に気付いた瑠衣斗が、怪訝な顔のまま口を開く。
「…なんだよ、そんな驚いた顔しやがって」
「いや…その……るぅが、るぅが?」
「日本語喋れ」
今まで長い事瑠衣斗を見てきたけども、私達以外の人に愛想のあの字もないような瑠衣斗が、接客していたなんて想像もつかなかった。
でも、そう思った後で、先ほどまでの様子が思い出される。
何だかお客さんに可愛がられているようにも感じた瑠衣斗は、きっと地元のみんなにとても慕われているに違いない。
瑠衣斗も瑠衣斗で、きっと照れ隠しでもしているのかもしれない。
宗太と龍雅が、こんなにもすぐ受け入れられている事からも、瑠衣斗の人望がよく分かるようだ。
何となく心がポカポカとして、私は頬が緩むのが分かる。
「るぅって人気者なんだね」
「…いじられてるようにしか思えねーけど」
そう答えた瑠衣斗に、私は素直に吹き出したのだった。