君への距離
「ピッチャー、平尾に代わりまして…水本、水本!背番号…3!」

杏が球場のアナウンスを真似てコールをかけた。



リョースケ
「バカだぁ!しかも背番号3って!!長嶋か??」



シオ、
「立浪さんだよな?杏めっちゃ好きだもん!」


マサキ、
「どっちにしろバッターナンバーやん!」



ケンちゃん、
「翼が降板させられたぞ!レッドの裏エース登場!!」




杏は続けた。

「バッター、平尾!!」





翼、
「僕?あはは、よし!来いっ!!」






グランドの緊張が一気にとけて、笑い声が戻った。






杏がピッチャーマウンドに立った。

アツシを見つめ、首を2、3度横に振る。



「サインだしてねえよ!」
アツシもゲラゲラ笑っていた。






杏の投げたその球は決して早くもないし、コントロールも最悪だったが、翼はわざと大げさに空振りをした。



アツシはその球を捕ると杏に向かって、
「ナイスピッチャー!」
と親指を立てた。



「ナイスキャッチャー!」
杏も親指を立ててニヤリと笑った。



「みんなナイス!!」リョースケが大絶叫して杏に走り寄っていった。


「エースを胴上げや!」
とマサキも、ケンちゃんもシオも走り寄る。




「やっ!やだぁ―!!」

杏は悲鳴をあげて逃げ回った。








「俺ぜってぇお前の球捕ってやるからなっ!」
アツシは翼の肩をポンと叩いた。



「ああ、裏エースほどいい球は投げられないけどな!」

翼はそういって笑った。

アツシもつられて笑顔になった。




「よっしゃ俺らも行くか!!」


「杏ちゃん早いぞ―…」






新バッテリーのふたりは勢いよく駆け出していった。




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