君への距離
「杏ちゃん軽やかっ!」
タクさんがびっくりしたように言った。



「杏ちゃんって体育会系だよね?」
ヨースケさんも感心したように言った。



「そうですかぁ?」
杏はニヤッと笑う。
「文学少女ですよ!高校のときはマン研の部長で…」



タクさん、
「あははは!文学少女なんてよく言うよ!」

ヨースケ、
「本当は何部?」




杏はちょっと困ったように言った。
「陸上…かな?」


翼は心配そうに杏を見た。


ヨースケさん
「まじで?陸上かぁ…杏ちゃん短距離っぽい!」


アツシ、
「短気だもんな!」


杏、
「何それ!!確かに短距離でしたけど…大したことないです!」




小さな嘘だった。

杏は大したことないどころか、中学から全国大会に出場しはじめ、成績は常にトップの天才と呼ばれる選手だった。
最年少で全日本の強化選手に選ばれるなど将来を期待されていたし、陸上をやっていた者ならだいたいの人が知っている存在だった。




(杏ちゃん、かわいそう…)

親友の葉子に言われたあの言葉が蘇る。


(せっかく今まで頑張ってきたのに…)



あたしが今までやってきたこと全部、意味がなくなってしまったのかな?





「でもさ…」

リョースケが言った。

「杏がいてくれてよかったよな!」



みんながポカンとして杏とリョースケを交互に見た。



「さむっ!」
杏がそう言って大げさに身震いした。



ゲラゲラとみんなが笑う。



「なっなんだよ―!」リョースケが赤面して怒っている。





杏はそんなリョースケをニヤニヤ見つめながら心の中ではすごくすごく感謝していた。



(過去があるから今がある…


そんな当たり前のことなんで今まで気づかなかったんだろう!)





杏はこそばゆいようなあったかい気持ちで胸がいっぱいになった。








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