良と遼〜同じ名前の彼氏〜
家出
「ただいま」


家はまだ静か。


カレーの香ばしい匂いが鼻をついた。


リビングに行くと、案の定親父がワンカップ片手に日本酒を飲んでいる。


「奈美、おかえり」


まだ呂律が回っている。一杯目だな。


カウンターキッチンでお飯の支度をしているお母さんがあたしに気づく。

すかさず始まる。


「奈美おかえりなさい。ちょっと聞いて、お父さんもうお酒飲み始めてるのよ。
信じられない。お夕飯前なのよ?」


「そう」


冷凍庫のピノを探りながらあたしは生返事をする。


今日は何味にしようかな。


「おい、奈美の前で言うことじゃないだろ。」

「あなたが酔っ払ってみんな迷惑してるからよ!」

「口うるせぇおばさんだなぁ」


親父は半分残っていたワンカップを一気にグビグビ飲み干すと、グラスをテーブルに勢いよく叩きつけた。


「いいから持って来い!」

「出ていけ酔っ払い!」


お母さんの声は既に声でなく、錆びた金属がキーキーすれるように、耳に障る。


「ちょっとやめなよ二人共。」


一応あたしは二人をなだめようと試みた。


娘の仲裁なら、少しは心を動かされるだろう。


でも次の瞬間、あたしのささやかな期待は木っ端みじんに砕け散った。
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