ツンデレラは王子の夢を見る



(……お)



その日の帰り道。


譲は彼女を見つけました。



大切なラケットが入った重いバッグに、疲れ果てた帰り道でしたが、背筋がしゃきっとするのが分かりました。




「きーりたに!」


「…!」




麻尋の視線がしばらく宙をさ迷います。


それから諦めたように、譲を見つめました。



「城市くん…」



(あーあ…どーすればいいか分からないって顔しちゃって、)



麻尋の表情は、いつも以上に不安げな顔でした。


眉間に皺はなく、眉も頼りなさげに下がっています。




(…いつも穴が開きそーなぐらい、オレのこと見てるくせに)



少し悔しくなって、わざと麻尋の隣を歩き始めました。




「桐谷、今帰り?」


「……そーだけど?」



(相変わらず、ツンツンしてんなぁ)



「…ふーん。桐谷さ、部活とかしてないじゃん?こんな時間まで何してたの?」



意地悪な質問だということは、譲にも分かっていました。


麻尋の表情がみるみる固くなっていきます。




(…意地悪な質問すぎたか?でも、しょーがないじゃん、)



だって、見たくて堪らないのだ。



素直になれないこの人が、耳まで真っ赤に染めるところを。


そのうち、瞳まで潤ませて自分のプライドとの間で揺れる表情を。




―…譲は自分を王子と思ったことなど、1度もありませんでした。


本当は、狡くて優しくなんてない人間なのだと。



ただひとりに好かれたくて、話がしたくて、気を使い続けているのです。




まだ1度も見上げたことのない、彼女のいる窓。



(確証、はある。でも…)



そんな確証も信じられなくなるぐらい、彼女を好きになった時、自分は。




(―…どーするんだろう)




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