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田舎バスの中

田舎バスの中。

客は席をバラバラに、4人ほど。

一番後ろの席に居た若い男は、顔の色艶もいいのに、俯いて

「僕はもう生きることに疲れたから、死にに行くんだ」と言う。

その前に座っていた老人は、見るからに青白く、目も濁っている。

「それなら残りの寿命、私にくれないか」と言う。

「寿命も、体も、臓器も、脳も、健康な部分を全てくれ」

「私はもうあと数時間で尽きる命を抱えている」

「そうやって健康な命を捨てていくのなら、どうかそれを譲ってくれ」

「だって、お前さんにはもう、必要ないんだろう」

そうして、結果的に使えなくなった命を包んだ中年女性が、さらに前に座っている。

彼女は、傍らの、名前も知らない少女へその包みを渡す。

少女はそのままバスを降りた。

彼女が抱えた包みは、彼女の体に足りないもの。

パーツを体に埋め込んだら、彼女は生きていける。

人々はそれを賞賛するだろう。

けれど、きっとそれは自然なことではない。

いわゆる、自然界には存在しない、いわば人造人間。

自然から授かったはずなのに、人はそれを、

時に自ら消して、欲して、不自然なものにする。

でもいいのだ。

だってそれを手渡したのは、あくまでバスの中。

バスを降りた彼女の居る外は、仄かに薄暗い。

バスの灯りがなくなったら、何の当てもなく真っ暗闇。

野犬にでも襲われたら、包みまでぐじゃぐじゃになる。

それでも通り過ぎるバスはきっと、彼女を救うことはない。

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