夢見月夜に華ト僕<連載中>



「いや、俺は適当にその辺で寝るから」


わずかばかりのプライドを守るために、俺は、できるだけ

感情を押し殺した平坦な声で、サクラの誘いを断る。



俺は、あの男とは違う。

こんなことがしたいために、サクラを俺の世界へと招き入れたわけじゃない。



そこまで堕ちるのは、嫌だ。


まだ……早い。



サクラに手を出さないということで、せめて、そう思いたかった。


……そう、思って欲しかった。



「カイ」

「ん?」

「明日、買い物行こうね」


サクラが、俺の無言の意図を感じ取ってくれたのかどうかはわからないが、

俺の言葉に納得したように、そう一言だけ言い残して、布団の中に身を埋めていく。



それからサクラは、最後に「おやすみ」と言い忘れていたかのように、小さく付け加える。


その言葉を合図に、サクラは、静かに瞼を閉じて、眠りに堕ちていった。



俺は、それを確認すると、固い床にゴロンと寝転がった。


きっと明日は、体中が痛くなっているんだろうと予想しながら……



そして、ほんのりと絨毯の温もりを感じて、俺も浅い眠りについた――


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