小悪魔は愛を食べる
* * *



「姫華ー!七恵ちゃんが来てくれたわよー」

ほわほわとした声に起こされ、地元住人の間では有名な豪邸の二階の自室で、姫華は目を開けた。

ドア一枚隔てた廊下から姫華の母親である三島華乃の独特な足音と、もう一つ、先程の華乃の声から察するに七恵のものだろう足音が近付いてくる。

その気配に、姫華は体を起こしてベッドに座った。

「ヒメー!あたしも風邪引いちゃったー!」

ドアを開ける音と声が賑やかで、つい笑う。七恵は「おばさんに伝染しちゃったらごめんなさい」と華乃に頭を下げた。

と、華乃は慌てて手を顔の前でぶんぶんと振り、あたふたと身振り手振りで七恵に向かって喋り始める。

「いいのよ、そんな。七恵ちゃんも姫華からもらったんでしょう?折角昨日お見舞いに来てくれたのに、こちらこそ、ごめんなさいね。ああ、そうだ。貰い物なんだけれど、美味しいケーキがあるから後で一緒にお茶なんてどうかしら?紅茶もね、新しい葉っぱがあるからそれで…」

「ママもう少ししたら下行くから、今はちょっと七恵と二人にしてよ」

騒がしい華乃の声に苦笑して姫華がそう言うと、「あら。あらあら」と華乃は口を手で隠して照れ笑った。

まるで少女のような可愛らしいその仕草は、とてもじゃないが大手企業の社長婦人であり、同時に都内有数の高級エステを取り仕切っているやり手女社長をしているような女性には見えなくて、七恵の胸が不思議な柔らかいもので溢れる。

一方で姫華は、どうしてこう、この母親はいつまでも可愛い少女みたいなんだと額を押さえた。

そんな華乃が部屋から出て行くと、姫華がそっと息を吐き出し、ここに座れと言うようにベッドの横を叩いた。

「おじゃまします」

「はい、どうぞ。で、今日は何の用事?」
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