小悪魔は愛を食べる
理由を、勝てるわけがない理由を問おうとした口が開いてくれなかった。悲しい寂しい声に、問う気持ちが萎えてしまった。

人はこういうものを、よく言えば美徳とか、悪く言えば偽善とか、言うのだろう。
私は偽善者だ。多くを知ろうとしない、傷つく事や悩む事から逃げようとする、臆病者だ。

視線を彷徨わせた凛子を一瞥して、真鍋はドアの向こうに消えた。

真っ白な箱の中に残ったのは、偽善と欺瞞を白衣で覆い隠した臆病な女ただ一人。

開け放された窓の外から、カナカナカナとヒグラシの鳴き声がしていた。
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