小悪魔は愛を食べる

「い、痛ー!」

「お前なぁ、可愛いからって何でもかんでも許されると思うなよ?ぶっちゃけ俺お前のこと可愛いとか思ったことないから。馬鹿嫌いだから」

みょーんと伸ばされ、ばちんと離された。痛さに「あぅあう…」と意味を成さない声が溢れる。

「え、ちょ、芽衣?まじで痛かったの?大丈夫か?」

普段人前では滅多に泣かない芽衣が涙目で頬を押さえている事に、壱弥が慌てた。真鍋は淡白に「そんな強く引っ張ってねーよ」と吐き捨てた。

「いい、イチぃ……鬼だ、このひと鬼だよぉ」

「よしわかった。ちょっと見せて」

「何がわかったんだっつのアホ。大体さぁ、壱弥が甘やかすからこんな女に育つんだよ。少し放ってみれば?」

「うっわ。指の形に赤くなってる!」

「聞けよ人の話」

真鍋を綺麗にシカトして壱弥は芽衣の機嫌をとり始める。
言葉通り指で摘んだ形そのままに痛々しく赤くなった芽衣の頬を見ながら、「そういえば」と真鍋が真剣な目をした。

「華原、腹の痣消えたか?」

「まだ」

かぶりを振られ、そうかと返す。

今から数日前、芽衣が休んだ日の欠席の理由を真鍋が尋ねたところ、芽衣は躊躇なく制服を捲り上げて薄い腹を見せた。
その、胃より少し下あたり。そこに紫色と赤のコントラストがなんとも言えず気持ち悪い大きな痣があったのだ。
驚愕のあまり無遠慮に凝視した真鍋に芽衣は笑って、蹴られた痕なのだと教えたが、年頃の少女がこんな痣を付けられるような暴力を受けて何故笑っていられるのかと不思議だった。
しかもその痣が痛んだために発熱し、欠席せざるおえない状況の翌日に、熱下がったし。と普通に登校してくる精神構造が理解できない。

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