小悪魔は愛を食べる


そして二人がそんなことを考えている間にも姫華は嫌味ったらしい声音でもって、後ろから横にまで進出してきた絢人に向かってこれまた嫌味な笑顔を向けた。

「あーら、万年主席の優等生様が自習抜け出しですか?余裕ですねぇ」

「華原、これあげる」

「おいこら無視かよ!!」

「なに?」

ボケやツッコミは、冷静に聞き返されると途端に妙な恥ずかしさでもって言い手を攻撃するものだなと、七恵が感心する。

しかもいつの間にかクラス中の視線が絢人に集まっており、あの三島姫華を綺麗に無視できるなんて、さすが倉澤絢人だと男子達がきらきらした目で動向を見守っているのだ。

やがて小さく舌打ちして、姫華が視線を逸らした。
負け惜しみなのは誰の目にも明らかだった。

はらはらと七恵が絢人と姫華を交互に見遣って芽衣に助けを求める。その視線の移り変わりの忙しさに、芽衣は「ナナちょー可愛い!!」とケタケタうけていた。

パサリ。プリントの束が芽衣の机の上に無造作に投げられる。

「いらないなら、捨てていいから」

話しかけられているにも拘らず、芽衣は絢人を見なかった。視界に入れようとすらしなかった。
初めてみる芽衣の態度に、七恵も、姫華ですら怪訝な表情を浮かべた。

けれど絢人は気分を害すでもなく、当然のように無表情のまま踵を返した。そこでようやく、芽衣の視線が絢人の後姿を追う。

きゅっと唇を引き結んで、小さな手から伸びる指でプリントの束を撫でた。

「ばかみたい」

呟きはささやか過ぎて、一番近い距離にいた七恵にしか聞こえなかった。

「め、芽衣…」

何を言ったらいいのだろう。追いかけろとでも、言うつもりだったのか?自分に問いかけてみても、言葉がみつからなかった。

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