青春ing

*天才ソフト少女

 空は何処までも広い。グラウンドに立っているあたしがいかにちっぽけな存在なのかということを思い知らされる。

 ――おっと、いけないいけない。まずは目の前の敵を打ち負かすのが先だった。



「……佐桜花(さおか)、よそ見してないでさっさと来なよ。」



 バットを構える、戦友の霧島美景(みかげ)。いつもは共に戦う仲間である彼女も、朝練のこの時だけは、仕留めるべき敵だ。

 苛ついた調子の美景の言葉。「最近バッティングフォームが乱れてる」と、顧問のさっちゃんに言われていたからだろう。短気な友人に打たせてやりたいところだけど、それじゃあ練習にならない。悪いけど、全力で投げさせてもらう。

 右腕で大きく弧を描き、勢いに乗せて球を放る。その瞬間、美景が小さく「あっ」と叫んだのが分かった。



「チッ!ストレートか!!」



 悔しげな声と共に振られたバットは、白球とお見合いすることなく空(くう)を切る。そして、後ろに控えていたキャッチャー・西野香子(かおるこ)が、バシッという快い音を立ててミットに球を収めた。

 右手の親指を立てて笑う親友。その目が“今日も絶好調だね”と言っていた。
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