青春ing
 彼女に会いに行くという在を見送って、一応は女ということで、井上を家まで送ってやることに。何を感動したのか、奴は「うわー!健ちゃん大好き!!」と言いながら、腕に絡み付いてきた。

 離れろと言っても離れないだろうから、もうこの際黙っておくか。歩きにくいのは仕方がない。そう思うことにした。



「ねぇねぇ、健ちゃんって兄弟居るの?」

「オレは一人っ子だ。」

「へぇー、そんな感じだね!あ、ウチはね、妹いるんだよ!翠(みどり)ちゃんっていうんだけど、これが可愛いんだー!」



 井上の妹、か……想像できる。こいつの言う“可愛い”は、多分そういうことだ。ギャル予備軍だとか、そんな意味だろう。

 シスコンなのか、妹の魅力を惜し気もなく語ってくる井上。“頭が良い”と言っていたが、所詮三流高校での話だろう。井上の家の前に来るまで、オレはそう思っていた。



「あ!ここ、ウチの家!」

「へぇ、新築か……もしかして、あそこに居るのって妹?」

「うん!翠ちゃーん!!今帰ったよー!!」



 丁度玄関をくぐろうとしていた、ブレザーの少女。振り向いたその姿を見て、言葉を失った。

 有名私立高校である、鳳凰学院の気品ある制服。それを纏った井上の妹とやらは、姉とは違って真面目そうな雰囲気だった。二つに結んだ黒髪と化粧っ気のない顔が、それを物語っている。



「……え、お姉ちゃんの彼氏?」

「だったらいいんだけどねぇ……まだ付き合ってないんだぁ。」

「……ふーん、何となく分かった。
いつも姉が迷惑かけてるんですね。申し訳ないんですが、仲良くしてやってもらえると嬉しいです。」



 ペコリ、頭を下げる妹。この礼儀正しさは、本当に井上と血が繋がっているのかと疑わせる程だ。

 何より、オレが通えなかった鳳凰学院の生徒。授業料が高くて諦めたのだと話すと、妹は「私も諦めそうでした。でも、授業料半額にしてもらってるから」と笑った。ということは、この子は常に学年首席を取っているということか。
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