落日


「ごめん、やっぱり面倒だよねぇ」


私は笑いながら、誠司の右手からパソコンのマウスを奪い取る。

そして、画面に映し出されたヴェッキオ宮の写真を閉じ、誠司が候補として挙げていた教会のサイトを眺めた。


「……ミラノはどう?」


マウスを転がしながら画像をチェックしている私に、誠司は言う。


「イタリアがいいって言うんなら、ミラノがお勧めだよ」

「ミラノ……」


そこに、フィレンツェという言葉は存在しない。

開かれたパソコンの画面にも、イタリアの文字は存在すれど、私の心の片隅にいつもあるフィレンツェの町並みは見つからなかった。


「――そうだね……。ミラノがいいかもね」


私は静かに笑って、ミラノの町並みが映し出された画像を見つめた。


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