恋舞曲~雪の真昼に見る夢は…~
あたしと並んで後部座席に座っていた誠志郎さんが驚いたようにおばさんに訊いた。

「毬ちゃんに好きだって告白しなよ」

「で、でも、おばさんっ」

「あの子に同情してるつもりなら、その必要はないよ。あのとき、毬ちゃんを命懸けで守ったのはあの子ひとりだけじゃない。アンタも命懸けで守ったじゃないか?」

たしかにおばさんのいうとおりだ。

「もしも、ココにあの子がいたら、きっと、こう言うだろうね……“オレ様はヤツらに殺られちまったのに、ちゃんと生き残った四方(よも)はスゲェ。アイツになら安心してマリヤを任せられる”……ってね」

「…!」

おばさんの思いがけない発言に、あたしは言葉を失った。

誠志郎さんのほうを見ると、彼もなんて返事をしたらいいのか分からない、というような切なそうな表情を浮かべていた。

すると今度はマスターがクチを開いた。

「ちゃんと自分の気持ちを毬ちゃんに伝えてみろよ。やらずに後悔するより、やって後悔したほうがマシってもんだぜ」

そうだ。剛はいつもそう言っていた。

はじめて会ったとき、落としたサイフを簡単に諦めたあたしに向かって剛は“探す前から諦めるな”って言ったし。

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