幻妖奇譚
「あっ!?」

「ちょっと! そこまでしなくても……」

 必死に男をなだめる彼女。

「いいんだよ! あんな何考えてるかわからねぇ奴につきまとわれてみろ? 何されるか判ったモンじゃねぇよ!!」

 なんて乱暴な男なんだ!?僕は彼女を怖がらせない様に、穏便に事を運ぼうと思っただけなのに――!!

 あんな粗野な男と一緒にいたら彼女が、傷つくだろう。泣いてしまうだろう……。


 その為にも、あの男に投げ捨てられた花を届けてあげなければ!!

 そうすればまた、彼女は笑ってくれる。

 満面の笑みで僕に話しかけてくれる!

 だって彼女は僕に惚れているんだから!!


 あちこちに散らばったガーベラを大体拾い終えた。

 ただひとつ。あの薔薇だけが見つからない。

「あれがないと……。あの薔薇じゃないと駄目なんだ。彼女が笑ってくれない……」

 ブツブツと呟きながら、線路に入り込み、レールの間に挟まっている薔薇を見つけた!

 周りがうるさい。そうか。薔薇を見つけた僕を祝福してくれているんだ!

 ありがとう。これで彼女は笑ってくれる!!
 手を伸ばそうとした時、強い力で撥ね飛ばされた――。



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