幻妖奇譚
 何なんだ?一体?

 今頃は彼女の元へ行き、泣きじゃくる彼女に寄り添っているはずだった。

 なのに……どうして今、大学に、しかも研究室にいるんだ?

 それに、全く動けない……!

 一応、何か見える事は見えるが、固定されていて正面しか見る事が出来ない。

 その時、カチャ、とドアが開く音がして誰かが入って来る気配がした。

 独特のオー・デ・コロンの香り……教授だろうか?

 コツコツ、と靴音が僕の方に近付いて来る。やっぱり教授だ。

「ほう……。これはこれは……」

 僕の前に立ち、感嘆の声をあげる教授。

「見事な薔薇だ」

 そう言って僕に顔を近付け、鼻をくん、と鳴らした。

 薔薇?確か3番目の鉢にしか咲いてなかったはず……。

「7鉢あるうちの7番目しか花が付かなかったか……」

 そう言うと教授は、カメラを取り出し、僕を写した。……もしかして僕は、薔薇になったのか――?

「それにしても、リョウ君は何処まで行ったのだ? せっかく咲いたというのに、レポートの提出もまだとは……」

 ぶつぶつ、と愚痴りながら研究室から出て行く教授。

 ああ、そうか。レポートにまとめるのを忘れていた。今は無理だけれど、動ける様になったら、まずレポートをまとめなければ――。



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