月のヒカリ
あわい光
「なぁ、さかもっち。オレ、ベートーベン好きじゃナイって言ってるやん!!」

 今日はピアノ練習日だ。幼い頃からよく辞めずに続けてると自分を誉めてやりたい。

「センセと呼べ。センセと!!」

 去年金持ち大学を卒業して、同じピアノ教室の先輩から先生に格上げした、さかもっちはナマイキにも呼び方に文句を言う。

「知ってる。だから選んだんや。」
「いやがらせ?」

 重ねて文句を言うと、もう知らん、と文句は流して楽譜を差し出してきた。

「え~!『月光』!?」

 そして、よりによってオレの一番苦手な曲を・・・・

「やっぱ、嫌がらせ?」

 なにもオレが嫌いなこの曲を選ばんでも・・・・!!
 いじめなん?マジで!

「悪いな。選曲権はオレにあるんや」

 ニヤリと笑った顔は、非常に嬉しそうでにくたらしい。

「つまらない曲だと、思っとんやろ?」

 オレは大きくうなずいた。
 出だしの単調なリズムとメリハリのないメロディは、おもんないし、最後はものすごい連打で弾くのめっちゃむずい。

 聞いても弾いてもオレにあわん曲やと思うてる。

 それに・・・・

「月ってあんなイメージやないやん!」

「そうか?お前は月見て、切なくならんか?
 ・・・オレはある。」

 聞かれて、首をかしげたら、鼻さきで笑われた。

「コドモやなぁ。オマエは・・・・。
 切ないほど綺麗な月を見上げた時に、『月光』を弾きたくなる日がくるんや。」

 そういって、さかもっちはピアノ室の重いカーテンを開けた。

「今日は綺麗な満月やないか。
 ちょうどいいから、歩いて帰れ!」

「え~!!」

 確かに今日はそんなに遅い時間じゃないケド・・・。サムい!!

「さかもっち、デートやからなん?」

 横目でヤユってみてもさかもっちは動じず、逆に

「匠海、高2にもなって甘え過ぎや」

 と、文句を返された。
 かくして、オレは寒空の下、歩いて帰るコトになったのである。

 なんでやねん!!





< 1 / 7 >

この作品をシェア

pagetop