恋 時 計 ~彼はおまわりさん~



「そんなふうに見つめられたら食べ難いんだけど」

「え?」

「青木も一緒に食べよ」



先生はもう一つのパックを勢い良く私に差し出た。


けど私、食欲なんて無いよ……。




食べようとしない私に向って『喰え』って指で合図する先生。

私は稲荷寿司にゆっくりと口をつけた。



「上手いだろ? 
てか、青木からもらった稲荷だから今のセリフはおかしいか」



冷たいご飯が口の中に広がると同時に、笑った先生の顔が歪んで見えてくる。



ああ、やっぱりもうだめだ。

私、泣いちゃう……。




涙の味が口の中で混ざり、鼻先がつーんと痛くなる。


先生は私に涙の訳を聞かず、「もっと喰え」って私の口に稲荷寿司を押し当てた。







< 428 / 712 >

この作品をシェア

pagetop