【SR】メッセージ―今は遠き夏―

繁人は乗務員から貰ったキャンディの封を開けると、勢いよく口に放り込んだ。

途端、子供のように満面の笑みになる様子を見ながら、百夏は小さく微笑んだ。


「繁人っていくつなの」

「あと一ヶ月で30だよ」

「……三つ上かあ。繁人って童顔だよね、同い年かと思ってた」

「ああ、よく言われるよ。ちなみに、初めて会った時にも同じことを言われた」


過去に恋人同士だったとは思えないような会話が続く。

だが、今の百夏にはそんな時間がとても楽しく、気持ちの安らぐ時間だった。


もしも、小樽で記憶が戻らなかったらどうしたらいいのだろうか。

百夏の最大の不安はそこだった。

現地に行って、解決するという保証は全くないのに……今起こしている自分の行動は、安直過ぎたのだろうか。

ぐるぐると、答えの出ない悩みを巡らせた。


――新千歳空港到着まで、あと45分だ。

< 28 / 56 >

この作品をシェア

pagetop