今宵、月の照らす街で

―現在、東京政都―

物語を紡いだ明奈は一粒、大きな涙を流した。


「私には…選択肢は無かったわ。もはや反逆者の様に刃を向けた兄さんを殺すしか…」


師は膝を抱えて、小さく、丸くなる。


「最期にね…兄さんを殺した後…兄さんはありがとうって…そう言ったわ。殺した私にね」


明奈のやりきれなさが、成二に痛いほど伝わってきた。


「その後、私は遺言に従って政都に来た…春日の使命を果たす為…アナタ達を護る為よ、せぇじ」


「俺達を…?」


明奈は優しく頷く。


「そう。もちろん最初はヤル気なんて無かった。だって八龍とは言え面識の無い人間を護る程余裕無いもの。大学は転入したけどまともに行かなかったし…キャバで男を騙しながら生きてた。ストレスを解消しながら…お酒に溺れたかったの」


「…」


黙る俺に言葉を続ける。


「でも…特に、アナタが歩く道が私に似てるんだもの。ほっとけないでしょ?」


「明奈さん…」


「私は運命に従う。身内殺しと罵られても………でも時々は泣かせてね?」
< 102 / 315 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop