今宵、月の照らす街で
ビルの屋上は5月でもまだ肌寒い。


その寒さに勝る冷たさが、一瞬で身体を駆け巡った。


「はるか先輩、下がって」


向かいの屋上には異形の姿。


―――半鬼…!


単独では初めての対面となる敵の存在に、成二は無意識の内に両手で拳を作る。


半鬼からの禍々しい敵意が、強く、成二とはるかの肌を打つ。


“敵意が強いコってやりやすいのよ。アナタに私の闘い、教えてあげる”


成二は、唐突に明奈の言葉を思い出した。


その言葉と共に教えられた一つの“型”を、一本の大剣を手にして、再現する。


「円舞・月風[エンブ・ツキカゼ]」


春日静水流扇術[カスガセイスイリュウセンジュツ]。


本来なら明奈の様に、扇を操り、敵を交わしつつカウンターを狙うのをコンセプトにした型。


それを、成二は西洋型大剣一本で、見様見真似のまま構えた。


師は何を思ったのか、単独で半鬼と遭遇したら必ず使えとまで言った。


―――この型を使う真意があるってコトだな…
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