今宵、月の照らす街で
春日明人は、悪夢を見ていた。


それは、決して醒めることのない、逃げ出そうとしても、逃げられない悪夢。


唯一の肉親である妹を、この手で殺そうとする夢。


夢を見ている途中、明人は淡い光に包まれた。懐かしい香りがした時、悪夢から解き放たれたのを感じた。


眼を開くと、二人の人間が、明人の顔を覗いている。


しかし、眼が霞んで見えない。


「兄さん…」


明人は、声の主を即座に理解した。その声を忘れたことは無かった。


「明…奈…」


感覚の無い手に、忘れていた温もりを感じた。


「兄さん…ごめんなさい…ごめんなさい…」


握られた明人の手を頬に当てながら、明奈が涙を流す。


「泣き虫だ…な…相変わらず…」


「だって私…2回も兄さんを助けられなかった…」


「いいんだよ」


嗚咽を漏らす明奈に、明人が微笑んだ。


「風を…司る…者を…感じる…明奈を…頼むよ」


その言葉が成二に向けられている事を理解して、成二は頷いた。


「京都に行け、明奈…」


「兄さん!兄さん?」


明人の言葉が弱くなる。


「ありが…とう………明…奈…俺は………休む……よ…」


明人の手が、明奈の手の中から擦り抜けた。


「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
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