今宵、月の照らす街で
「…わかりました、引き続き調査等お願い致します」


長官と明奈が話を終えた後、主に政都の封鎖区画に対する保障案、対策案等に関する議題に焦点を当てた。


明奈はそのまま俯く。成二は無意識に師の姿を注視した。


「成二?」


「あ…ごめん。何?」


紘子が呼ぶ声に、ハッと我に返った。紘子は困った表情を浮かべ、顎先で軽くディスプレイを指した。


『成二。お前が経験するには、まだ早過ぎる大事件だと私は思う。だが、お前の力が必要不可欠であるのも事実。多香子の指示に従い、存分に力を発揮しろ』


「…わかりました」


成二が頭を下げる。視線だけを上げると、別のディスプレイに、老人達が顔をしかめながら映っていた。


きっと、疑念を抱いたのだろう。たかだか高校生に、この大規模な問題の解決に大きな期待を寄せているのだ。


そう思うのも無理は無いが、その視線が辛いのも、成二にとっては紛れも無い事実だった。


それでも、成二の胸の中には、今までとは違う感覚があった。


自分が自由に動く事が出来れば、葉月を助ける事に繋がると信じていたからだ。


人に仇為すモノを斬り、人を助ける為の刀。自らの存在意義を、そう信じていた成二には、葉月と言う身近な存在を護りたいと望む意志が、今までには経験した事無い不思議なモノだった。
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