今宵、月の照らす街で
ふと、忘れかけていた成二の記憶が鮮明に甦る。


“成二ゴメンね?…大好きだよ”


頭が割れそうになる痛みに、耐えられずにうずくまった。


心臓が強く脈打ち、身体を震わせる。


“成二…元気でな”


「―――ッ!!」


頭が何かで締め付けられそうな痛みが成二を襲う。


二度と思い出したくない、血に染められた忌まわしき過去に、支配された。


―――思い出すな!


そう言い聞かせても、過去の映像は頭から離れない。


急に温かいぬくもりが、優しく身体を包む。


「は…はるか先輩?」


「私がいるからね?」


その温もりの正体は、はるかの優しい抱擁だった。


「キミにはいつも私がいるからね。一人じゃないよ?」


トクン、トクンと、はるかの温かな鼓動を聞くと、成二を苦しめていた頭痛が引いていった。


「アナタたち…今は一応お勤め中なんだからね…成二、同級生は私達が預かるわ。アナタは政都大病院に行きなさい」


千鶴の声で、二人はびくっとなる。


千鶴の許可に成二は逸る気持ちを抑え、紘子が搬送された病院に向かう車に乗り込んだ。
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